十二月 真冬の夜空の下は凍えるような寒さで、けれど私は冷えるばかりの身体を温める事もせずにただ黙々と歩いていた。クリスマスが近づいた街は色とりどりのイルミネーションの光で彩られ、ここだけは少しだけ暗い現実から離れた世界のように見えた。 世の中はまだ元通りにはなっていないけれど。 かじかんだ手をぐっとコートのポケットに捩じ込んで、寮へと帰るためにまた歩き出した。寒い・・・・・・雪が降るかもしれない。 ポートアイランド駅に着いて、そのまま丁度よく来た電車に乗り込む。がらがらに空いている車内で空いている座席を探すのは簡単だった。 車内で本を読んだり音楽を聴いたりする訳でもなく、ただぼーっと毎日のように見続けている景色を眺めていると、速かった景色がゆっくりと流れ出した。どうやら減速しているらしい。 しばらくして開いた扉から出て、改札を通り抜けて巌戸台駅を後にした。 ぽつり、ぽつり、と舞い降りる。寒い寒いと思っていたら、予想通りに雪が降り出し始めた。 首に巻いた黄色のマフラーを少し口元に寄せて、雪の降る帰路を歩いた。傘を忘れたから直接に雪が当たって冷たいけれど、これはこれでいいかもしれない。 雪まで降り出した寒空の下でアイツは、綾時は・・・凍えているだろうか。 一体どこに行ってしまったのだろう。彼に訊いても「俺にもアイツがどこに居るのか分からないんだ」としか答えてくれない。 この寒さで凍えているだろうか。 あれから、あの決断(決別・・・かもしれない)から綾時は私達の前から姿を消してしまって、誰も居場所が分からない。 アイツは泣いているだろうか。 綾時は優しいから瞼が腫れあがるぐらい、涙が枯れ果てるぐらい、声が掠れるぐらい泣いているのかもしれない。 空を仰げば、ぽつり、ぽつり、と舞い降りる雪が、暗闇から堕ちてくる。その闇の中、三日月がぼんやりと黄色く浮かんでいる。 会いたい。けど、もうきっと最後の時まで会うことは出来ない。分かっているから、余計に悲しい。運命を呪えば、こんな想いをしなくてすんだのかな。 「・・・綾時」 声に出した愛おしさは、白い静寂に掻き消された。会いたい・・・好き・・・大好き・・・愛してる。全部が全部、白に消えた。 どうして月は暗闇にいるのに、大切な貴方はどこにもいないの。 イルミネーションのきらきらとした輝きはもうどこにもなくて、あるのは薄暗く灯された街灯と車のライトだけだった。 ぎゅっと黄色のマフラーを握る。雪のせいで濡れて、それが泣いているように思えて、 「」 静寂のはずの世界に、愛おしい声が聴こえた気がした。 ( 振り返れば黄色い月が私を見ていた ) (20080107)(何故P3は切ない系になってしまうのだろうか) |