俺があいつを初めて見たのは、確か涼宮ハルヒと会話をするようになってから少し経った時だった。
ハルヒは休み時間になるとすぐにどこかへ行くので、その日も俺と谷口と国木田は一緒に飯を食っていた。
いつも通りにバカみたいな話をしながら(主に谷口の女性に対する持論だったりするのだが)、
弁当のおかずを消化していた時だった。
「谷口ー!谷口いるー?」
俺の隣で国木田に、この間知り合った女性について語っているこのバカな谷口を呼んでいるらしい、女の声。
呼ばれている本人は話に熱中していて気づいていないらしい。
このクラスに谷口なんて名字はこいつしかいないから間違いではないはずだ。
当然そのまま無視するわけにもいかず、俺は谷口を小突いて呼んでいる女子生徒の方を指差した。
谷口はその女子生徒を見ると 「おお、久し振りだな!悪ぃ、気づかなかった」
などと声をかけている。
どうやら谷口とは知り合いらしい。
このクラスの女子に対する話し方と少しだけ違うことから、あの女子生徒とはどうも仲がいいらしいことが判明した。
………つーことは東中出身か?
と、あれこれ疑問に思っていると谷口が 「涼宮がどこにいるか知ってるかってお前にも聞いてるぞ」 と言われて初めて、
その女子生徒が俺を見ていることに気がついた。
髪の長さはこの間ばっさり切ってしまった今のハルヒよりは少し長めで、見た感じ大人しそうな印象を受けた。
顔は整ってる方だと思う。ほんの少し見惚れてしまったが、すぐに思いなおした。
いかん、これじゃあ俺も谷口のことは言えないな。
「すまん、俺も知らないんだ」
「…そうですか。それならいいんです、ありがとうございます」
その女子生徒はぺこっとお辞儀をしてから谷口に 「ご飯食べてたのにごめんね!
ありがと!」 と礼を言って帰っていった。
ハルヒの居場所について聞いてくるのだから、少なくともハルヒの知り合いか何かなのだろう。
あいつにも女の友達がいたのか。
そんな俺の考えを見抜いたのか分からんが、谷口が 「あいつは涼宮の親友だよ」
と教えてくれた。
ハルヒの親友?
「嘘じゃねーよ。あいつは隣のクラスの。東中出身で1年ん時から涼宮の親友なんだよ。
だけはずっと涼宮と一緒にいんだけどよ、別に他に友達がいないってわけじゃない。性格はよくて面倒見がいい。
顔がいいことは認めるが、には涼宮ハルヒという最強のガーディアンがいるからな、
迂闊に手は出せなくて告白とかはほとんどなかったらしい。何でもに手を出したら死刑!ってラブレターすら捨てたらしい」
「ふーん、それでお前はやられたのか?」
「やられてねーよ!聞いた話だって!まあ、涼宮の面倒を見れんのはあいつぐらいだろ。 あ、お前もいたか」
「俺には無理だ。ったく、勘弁してくれよ…」
ハルヒにも親友なんていたんだな。
あとでさり気なくハルヒにその親友について聞いてみようと思い、弁当の残りを消化することにした。
まだその時の俺は、あいつだけは宇宙人でも未来人でも超能力者でもない俺と同じ普通の人間だと思っていたし、
ハルヒのとんでもない思いつきに振り回される俺と同じ苦労人だと思っていた。
だが、俺のその考えはあいつとのファーストコンタクトからもうしばらく、
ハルヒを神だ何だと聞かされてからすぐにそれが間違いであると認識しなおさなければならなくなった。
…それでもあいつが苦労人だというのは変わらないように思うが。
まさかこんな日に限って日直だとは…。
ご飯を食べ終えた昼休みの教室に、突然ハルヒが乗り込んできたと思ったら
『放課後に文芸部の部室がある旧館に来て!絶対だからね!』
と言い残して、颯爽と帰っていった。
そして放課後。
誰も居ない教室に残って、私は日誌を書いていた。
必要なことを書き込んで見直す。 (・・・終わった、かな) シャーペンを机に置く。
そして休憩がてらに窓から覗く空を見て、ぼーと思考する。
やっとここまで来たのか、と改めて認識する。そういえばこの間もそんなことを思ったっけ。
彼が登場したのだからそれは当たり前のことなのだけど、どうしてもそう思わずにはいられない自分に苦笑をもらした。
おっと、もうこんな時間!早く行かなきゃハルヒにどやされる。
最後の戸締りをして教室の鍵も閉めて、日誌を担任に届けてから旧館へと走る。
ここまでダッシュするのは流石にキツかった。ひどく痛むわき腹を押さえて深呼吸しながら息を整える。
ふふ、私の基礎体力なめんじゃないわよ!(限りなく低いから!)
文芸部と書いてあるプレートを見て、ドアをノックした。
中から 「どうぞ!」 というハルヒの返事があったのでドアノブを回して中に入る。
「遅くなってごめん!運悪く日直私1人でさー、って……あなたは確かハルヒのクラスの」
「そいつはキョンよ。何?そいつのこと知ってたの?てか、遅いわよ!」
「だからごめんって!前にハルヒの教室に行った時にちょっとね」
そこでしっかりと視界に彼を捉えた。
前に見た時は遠くに座ってたからあれだったけど、こうして立っている姿を見ると随分と背が高い。
挿絵で見るのと実際に見るのはやっぱり違うなーっとちょっと感動。こうして彼がここにいるのはやっぱり不思議な気分だ。
ハルヒの時も有希の時もそう思ったし、これから出会う彼女にも彼にもそう思うのだろう。
未だに困惑した表情を浮かべている彼に向かって挨拶をする。
「はじめまして、でいいよね? 私は。これからよろしくね、キョンくん!」
「ああ、俺の方こそよろしく」
ちょっと戸惑いながらも彼――― キョンくんは挨拶してくれた。
後ろで座って本を読んでいる有希にも、「先に来てたんだ。どう、その本は面白い?」
と声をかける。
本から目を離して私を見て 「、読む?」 と少しだけ首を傾げて聞いてきてくれた。
「うん!じゃあ、有希が読み終わったら貸して」
「了解した」
これにはハルヒもキョンくんも驚いたらしく、2人とも目を丸くしていた(ハルヒには有希と同じクラスって言ってなかったっけ?)。
「その…は同じクラスかなんかなのか?」
「そうだよー。ハルヒには言った記憶があるんだけどな。今は席も隣同士なんだよね!」
「そう、隣同士」
「へー、それは知らなかったわね。キョンを知ってたのも知らなかったけど」
ハルヒさん、それは言うの忘れてました。と、ふざけて言ったら小突かれた。
まあ、キョンくんについては 『クラスに中々面白いやつがいたのよ!』 って、ハルヒから散々聞いて知ってたんだけどね。
それに、そういうの抜きでも私はキョンくんのことはずっと前から知ってたし。
それからハルヒは部室内にいる全員に 「それじゃあ、これから放課後は部室に集合しないと死刑だから!」
と言って、
帰り支度を始めたので私も降ろしていた鞄を持つ。
同じように帰り支度をしているキョンくんに近づいて、ハルヒに聞こえないように小声で話す。
「教室ではハルヒの面倒をみてくれてありがとう。
これからもハルヒが暴走し過ぎないように叱って欲しいんだけど、いいかな?」
キョンくんは少し目を逸らしてどうしようか考えていたようだったけど、何か諦めたらしく小さく溜め息をついて了承してくれた。
「教室での面倒は俺が見るけど、ここでの面倒はも見てくれると嬉しいんだが」
「いいよ、分かった。じゃあ、ここでは2人で頑張るってことで」
お互い顔を見合わせて、私は笑ってキョンくんは苦笑した。
やっぱりキョンくんは優しいな。うん、面倒見がいい!そして苦笑が似合う。
私たちの様子に気づいたらしいハルヒは、ちょっとむっとした顔をしてこちらを見ていた。
「ちょっと!こそこそと何してんのよ!帰りファミレス寄るんだから早くしなさいよ!」
「あ、そうだった!それじゃあ、キョンくんまた明日!気をつけてねー」
「おう、もな。じゃあな」
「有希もバイバイ!」
「…また明日」
2人に手を振ってハルヒと共に部室をあとにする。
それからハルヒと一緒にファミレスに寄って家に帰ったら、結構な時間になってしまった。
明日は彼女が入部するのか。そう思うと楽しくなってきて、早くみんなで遊びまくりたいと思えた。
まさか自分がこんなに楽しめる日が来るなんて、3年前は思いもしなかった。
忘れたくても忘れられるはずのない3年前のあれを思い出して、また胸がズキン、と痛んだ。
( 20071029 )
キョンくん視点って難しいな。つか、谷口を喋らせすぎた感が否めません。
今回はキョンくんとお友達になろう!な感じなので。ハルヒと親友なはずなのにそんなに話してない、よ、ね?(…)
所々に伏線を張ってはみたのですが、まあ、分かるよね!みたいなのがあったりしてね笑。次は彼かな。
→ 20080211
北高は携帯は禁止らしいので修正しました! ・・・古泉、お前いつも使ってなかったか?(疑問)