それがいつからだったのか、私はよく覚えてはいないのだけれど、彼は夜に時々こうして私の元に現れる。
ふらっと、何の前触れもなく突然現れる。その気紛れさは猫のようだといつも思う。
そうして現れた彼が私の元へやって来てすることは、大体同じだ。ベットに寝そべる。
別に男女の営みをするわけではない。彼は私を抱いて寝るのだ、強く強く、私を抱いて(この場合は抱きしめて、と言った方が適切である)。
その態度は幼い子供が母親に縋りつくのと同じものなのだ。
だから私も、母が子にするような優しさをもって抱きしめるのだ。ありったけの優しさと温もりをこめて。




いや、本当のところ彼はただ気紛れで私の所に来るのではない。
それは大体、彼の仲間(この場合は、最近入ったばかりのチェスではなく、昔からいる、そうペタのような者)が死んでしまったりした時に来る。
彼ももとは人間なのだ。心を捨てきったわけではない。ただ、人間が憎かっただけ。
そういう感情があるのだから、心が無いはずがない。
悲しいときに、私に縋る。それは彼の唯一の弱さだ。私だけにしか見せない、彼の弱さなのだ。
仲間が死んでしまった夜は、悲しくて寂しい。彼は失う辛さを知っている。少なくとも私はそう思っている。
だから私に縋る。それが私は嬉しい。幽閉されている辛さなど、忘れてしまうほどに。




今日もまた彼は現れた。
彼は、私に「やあ、。久しぶりだね」なんて笑いかけてくれるけれど、その笑みが寂びそうなのをきっと彼は知らないだろう。
私たちは少しばかりの雑談をして、すぐに彼はベットへ寝そべり、私を抱いて眠りにつく。
いつもそう。私は彼が眠った後もしばらくは起きている。それはいつも会えない彼の姿を、少しでもいいから目に、脳に焼き付け刻み込んでおきたいからだ。
私の胸の辺りに彼の顔があるので、残念ながら彼の狂おしいほどに綺麗な顔を見ることは出来ないが、彼の糸のように細く綺麗な髪を触ることは出来た。ああ、久しぶりの彼の髪。
何一つとして変わることはない。彼は永遠なのだ。


「・・・・・・ファントム・・・」


彼の名前を口にするだけで、それだけで私は幸せなのだ(自然と頬が緩むことを、幸せと言わずに何と言うのか)。
このメルヘブンに住んでいる人間達がその名前を聞くだけで、恐れ戦くというのに。




彼は不安をなくす為に、私を抱きしめる。それで彼が安心できるのなら、私は四六時中こうしていてもいい。
ただ、こうして彼に触れていて思う。
何てこの人はこんなに冷たいのだろう、と。それは氷のような冷たさで。体温などないように。
ゾンビ、不死なのだから当たり前と言われてしまえばそれで終わりなのだが、それでも私にはそれが不安で仕方がない。
彼がこうして寝ている間に、死んでしまっても分からないのだ。(・・・冷たい)
ああ、そう考えてしまうと、私はいつまで経っても眠れない。それほどまでに私は、不安で不安で仕方がないのだ。
彼が死ぬことはない。殺しても死ぬことはない。それは分かっている。それでも私は、




Frozen hand

(ねえ、どうすればその手の冷たさに怯えなくてすむの?)





ファントムしゃべってねえ!!!(阿呆)名前変換もほぼない感じで。
初のメルでファントム夢がこんな感じでした。すみません、情報が足りない・・・!(漫画持って無いんです)
(アニメとドリィだけで頑張った)フャントム好きなので愛でカバー(やめて)。そしてほぼ捏造。(20070111)