覚めない夢はもう夢ではないの。
カチコチと鳴る時計の音と、ペラっと紙を捲る音だけが部屋の中に木霊する。
静寂とはまさにこの事を言うのだろう。
「んー…っ」
っと大きく伸びをする。動いていなかったせいか、ボキッという恐ろしい音が聞こえた。
小説を机の上に丁寧に置く。傷が付いたら大変だ。
「(やっと読み終わった…。今回は特に先の読めない展開が多かった気がするなぁ。
あー、早く下巻発売しないかな…。今から楽しみで待ちきれないよー!)」
興奮した心を落ち着かせようと、机の上に置いた小説の表紙をひと撫でする。
つい先程まで私が読んでいた小説とは『戯言シリーズ』と呼ばれるもので、
今しがた最新刊のネコソギラジカルの中巻を読破したところである。
シリーズとしては、この次に出るものが最終巻になる予定のため、ストーリーの内容が濃く、息も吐かせないほどの展開ばかりで、思わず時間も忘れて読み進めてしまった。
壁に掛かっている時計を確認すると、もう結構な時間になってしまっている。
明日は通常通り学校に行かなければならないと、沈む気分をどうにか押し込んで、いまだに高揚している気持ちを噛み締める。
机の電気スタンドを消して、もそもそと布団に潜り込む。
枕元の棚には戯言シリーズが置かれてある。
その中の一冊をしばらく眺めていると、ようやく瞼が重たくなってきた。
「(幸せな倦怠感…。これで戯言の夢でも見られたらもっと幸せなのに…なんて)」
本がかさりと音を立てたのをぼんやりと聴きながら、意識を沈ませていった。
・・・
ぼくは何をしたのだろうか? 何をしてしまった? …いや、違うだろ。
………落ち着くんだ、ぼくらしくも無い。
ここで言うところのぼくらしいとは何だろうと思ったが、それは言うまでも無く戯言だ。
…まずは状況を把握しよう。
「…この子、誰?」
目の前に見知らぬ女の子が、すやすやと気持ち良さそうに眠っていた。
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(20050718)