第 肆拾 話
「・・・・・・・・・はぁ」
本日も晴天なり。だけど、私の気分は曇りであった。
あの悪夢のような最悪の出来事から、何事もなく1週間ほど経った。
あれから数日後、いーは長かった入院生活を終えて退院し、私は今までお世話になっていた家出兄妹の部屋を出た。
元々いーが退院するまでって話だったからそうなるのは必然で、そのことは自分でも理解していたつもりだったけど、
いざ部屋を出るとなると寂しいと感じてしまった。
あの部屋で過ごした時間は本当に短くて、あっという間に過ぎてしまったけれど、すごく楽しかった。
私を孤独という絶望の淵から引っぱり上げてくれた萌太。
私の孤独という絶望で出来た心の傷を癒してくれた崩子。
2人には感謝してもしたりない位に感謝している。
いつだって泣きたい時には側に居てくれた。それがどれ程までに私の助けに、救いになったか。
ありがとうって、心の底からありがとうって、言ったら2人とも笑っていたっけ。
「寂しくなったらいつでも来てください。僕はずっと、を待ってますから」
「泊まりに来てくれるだけでもいいです。、覚えておいてください。私はいつもここに居ます」
そう、言ってくれたから。
涙が出るくらい嬉しかったんだ。私の存在を認めてくれてるって、そう思えたから。
そして。また、いーとの同居生活が始まって、数日が経ち、今度は彼女 ――――- 千賀ひかりさんが同居人になった。
けれどまあ、考えれば分かるように定員オーバー。
四畳一間の空間に、大人3人を生活させるのは流石に無理があったので(3枚も布団が敷けないんだよね、これが)、
春日井さんが居た時と同じように、私はまた姫の部屋で生活することになった。
そのことについて、いーも萌太や崩子達も何か言いたげだったけど、そこは納得してもらった。
もう、姫の死を受け止めないわけにはいかないんだ。
そんなこんなで、今は姫の部屋で1人暮らしなるものをしている。
ただ、ご飯はいーと一緒に食べる事になり(何でもひかりさんが提案したのだとか)(なんて素敵なメイドさんなんだ・・・!)
ひかりさんの美味しい手料理を食べてます。本気で美味しいよ!
ここまで見て分かるように、ここ数日間は文字通り平和な日々を過ごしていた。
そしてこれから数日も平和な日々は続くはず。 ―――― まだ狐面の男からの招待はされていないのだから。
だけど私は、その平和な日々すらも恐ろしくて仕方がなかった。
いつあの男がいーに仕掛けてくるか分からない。
いつあの男が大切な人を傷つけるか分からない。
そんな事あるはずがないのは分かってる。・・・・・・分かってる! けど、怖くて、恐ろしくてどうしようもなかった。
私という存在がどういったものなのか、自分でも分からなくなってしまったから。
あれからずっと、心に鉛が堕ちていくような苦しい感覚に襲われる。息が、出来なくなるような苦しい気持ち。
酷い時には立つことすらままならなくなった。・・・苦しくて、泣きたかった。
あの男は私の今までの存在理由を否定した。
所詮お前はイレギュラーな存在でしかないのだと、そう言われた気がして、突き落とされたように、感じて。
「・・・・・・自分が、何なのか、分からない」
≪侵入不能≫
なぜ、狐面の男は私のことを態々言い直してまでそう呼んだ? その時の奇野頼知は驚いた顔をしていた。
なぜ、奇野頼知はそう呼ばれた私を見て驚いた? もしかして狐面の男は、いーのことを≪いーちゃん≫と呼ばせているように
私のことを≪侵入不能≫などと呼んでいるのか? なぜ、そんなことをする?
――――――― 分からない。
分からないことだらけで、何が分からなかったのかも分からなくなってきて。
これじゃきっと、あの男の思う壺なのに。
それでも、そうと分かっていても私は・・・、恐怖するしかなかった。
あの狐面の男という存在に、私自身の存在に、ただただ恐怖するしかなくて。
今でも鮮明に思い出せる。
例え目と耳を塞いでも、脳裏に焼き付いて離れないあの男の声や腕や身体つきやあの仮面さえもすべて鮮明に
―――――― !!!!!!!
私の心を完膚なきまでに支配したあの男。
そして私は悟った。あの男からは決して逃れられないのだと。私を逃がしてはくれないのだと。
『次に逢うときまで』
確かにあの男はそう言っていた。あの男がそう言うなら、きっとまた来る。
でもなぜあの男は私に構うのだろう。こんな・・・、こんなイレギュラーな私なんかにどうして・・・!
「分からないっ、私は何なの?!! あいつは何を知ってるっていうのよ!!!!!」
狐面の男について、いーは何も話さない。それはきっと私を、皆を護るためだと思うから。
だから私も聞かない。折角いーがそうしているのに、その目的の、意思を邪魔したくない。
邪魔しちゃ、いけない。私なんかが出しゃばれるような場面でもなければ人物でもない。
結局、私はこの物語にとって邪魔な存在でしかないのだろうから・・・。
私の中での狐面の男の存在は何よりも強く恐ろしい恐怖の対象になり、そうして私は今日も夢を見ることも出来ずに朝を迎えることとなる。
どう足掻いたって確実に始まりつつあるお祭は、もうすぐ。余興はすでに始まっていた。
「こわい・・・、こわいよ・・・・・・」
真っ白狐が哂って観てる。真っ赤な靴で踊らされている可哀想な子猫はだあれ?
ほらほらもうすぐ、迎えに来るよ。憐れなキティに更なる恐怖を与えにさ。
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≫何ヶ月更新してないんですかこの畜生め!って感じですよねこの畜生め!
狐さん至上主義(笑)とか言ってもおかしくない展開に。随分と恐怖を根付けましたね。流石は狐さんと言ったところです。
次はどうなることやら・・・。自分でも分からなくなってきました笑 (20071124)