この出逢いが預言に標されたモノなんかでは決してなかったのに




初めて彼と出逢った日のことは、ぼんやりとその光景と、彼の生意気な言葉遣いだけを思い出せる。




ローレライ教団に入団してしばらく経った頃、私は第五師団に配属された。その団の師団長が彼だった。
入団の挨拶のために師団長室に向かった。ノックをし、中から許可が下りたのを確認して、私は入室を果たした。その時に私は、少しだけ驚いたのを覚えている。イメージの違いに戸惑ったのかもしれない。

黒い闇のような生地にオリーブ色で所々縁取りされた服を身に纏い、これまた綺麗な深緑色の髪色をして、素顔を隠すために仮面をつけた彼が、ただ静かにそこに存在し、当たり前のように息を吸って、当たり前のように私に訊くのだ。


「お前、名前は?」


その問いに私も当たり前のように答える。少し、生意気だと思いながら。


であります」


敬礼をして大きめの声で名前を言う。2人しか居ない部屋に、私の声が酷く、響いた。
彼は入室した時から窓際に寄りかかって腕を組み、探るような目で私を見ていた。仮面のせいで表情を読み取ることは出来ないが、眉間に皺が寄っているように思えた。

耳が痛くなるような静寂が空間を支配していたが、しばらくして、彼が口を開いた。


「僕の邪魔はするな」


この人は、私の実力を測りたいのだろうと、直感で思った。


「はい」

「足手まといになるな」


人など、どうでもいいと思っている、そんな気がした。寂しい人なのだろう、と。


「はい」

「・・・・・・期待、しているよ」

「有り難きお言葉。ご期待に必ずや応えてみせます」


彼は私を試すように、面白そうに、可笑しそうに、はたまた脅迫するように、言葉を紡いだ。きっと、仮面の下は意地悪く笑んでいるに違いない。そう思い私は、師団長室を後にした。

縦に長く、横に広い教団の廊下を靴音を響かせ歩きながら、気づけば、彼のことを思い出していた。





(あんな、生意気なやつなのに)








≫補足。シンクの部下で1年近く前の過去のおはなし。(20060317)

 全てが始まったばかり。