現在、みいこさんから借りたフィアットの助手席に乗って、あの城咲へと向かっているところです。
なぜかというと、ちょっと回想。
「それじゃあ、まだ午前中だしちゃんの生活用品なんかも買いに行かなくちゃね」
「お、お世話になります。もう本当に何からなにまでありがとうございます…」
「ううん、ぼくが好きでやってることだから気にしないでよ。よし、早速買いに行こうか」
「あっ!っ、えと、ま、待って下さい!」
「ああ、ぼくのことは好きなように呼んでいいよ。それに、敬語も無しでいいから」
「あ、はい。じゃなくて、うん! んーと、じゃあ【いー】って呼ぶことにするね。
って、それもそうなんだけど、でもそうじゃなくて、あのね、私パジャマなの…」
「あ」
みたいな会話が先ほど繰り広げられたのでした。
いろいろと悩んだ結果、「服は…、玖渚にでも借りるか…」との事になり、彼女の家に向かっている最中というわけです。
以上、回想終わり!
「……その服かなり大きいと思うけど、あと少しで着くからもう少し我慢してね」
「ううん。こちらこそ、服を貸してくれてありがとう」
なので、今はいーの服を借りて着ている。
全体的にだぼついてしまっているのはこの際致し方ない。というより、パジャマで出歩くよりはいい。
しばらくして、彼女が根城にしている高級マンションに着いた。
…小説には高級マンションという描写があったけど、想像していたものよりかなり大きくて豪華。
その雰囲気に多少気後れしながらも、いーに連れられてエレベーターに乗り込み目的の32階へ。
見たこともないようなすごいセキュリティの扉を開けて、広がっていたのは迷路と化した部屋だった。
呆然としていると、颯爽といーが中に入っていくので、慌てて私も「お邪魔します」と呟いて、その後に続いた。
・・・
「初めましてなんだよ、ちゃん!僕様ちゃんの事はどーとでも呼んでくれ!うふふっ」
「どうも初めまして。それじゃあ、友って呼ばせてもらうね」
「ちゃんの事は一通りいーちゃんから聞いたんだよ!パラレルワールドの住人?異世界トリップ?不思議の国のアリスのような、眼鏡っ子ならぬ、不思議っ子だねっ!」
玖渚友は、原作を読んでいた時から思っていたけど、こうして実際に対峙すると尋常じゃないほどのハイでハイなテンションだと思う。
でも、一見美少女にしか見えない彼女は奇人を束ねる暴君ー…、死線の蒼。
「友、少しメートル下げろ。ちゃんが可哀想だ」
「うに?それはごめんなんだよ、ちゃん」
「え、そんな、私は大丈夫だよ」
「で、友。早速本題なんだけど、
ちゃんに服を貸してやってくれないか?
今は見ての通り、ぼくの服を貸してあげているけど、いつまでもぼくの服だけじゃ可哀想だし、お前はいろいろと服をコレクションしてるだろ?よかったら数着あげて欲しいんだ」
「私からもお願いできないかな?」
「ん?いいよ?いーちゃんの頼みなら、そんなの朝飯前だよ。
んじゃ
ちゃん、こっち来て!僕様ちゃんがとびきり可愛くコーディネイトしてあげる!」
ぴょんぴょんとソファを飛び越えて、扉の方から手招きして呼んでくる友は、それはもうもの凄く可愛かったり。
動いてる玖渚かわいい…。なんて、変態じゃないんだから自重しないと…。
「うん、今行くー!
…いー、連れてきてくれてありがとう」
友に手を振りながら、隣にいる彼にお礼を言う。
なぜか驚いたように目を丸くした彼の姿がすこし面白く見えて、笑ってしまった。
怒っちゃったかな、と心配しつつ彼女の待つ衣装部屋に向かった。
その頃、ソファに一人残された戯言遣いは
「……。戯言だよな…まったく」
と、扉の向こうに消えていった彼女の背中に呟いた。
・・・
「本当に、何から何までありがとう。今度お礼に伺うね」
「そういう僕様ちゃんこそ、とっても楽しかったんだよ。
ちゃんに似合う洋服、たくさん用意しておくから、ちゃんも楽しみにしといて!」
「それじゃあ、友、また来るよ」
「またね」
「バイバーイ!!」
友とはここで別れて、来た時と同じように、エレベーターで1階まで下りてフィアットに乗り込む。
それにしても、服をこれでもかというぐらいにたくさん貰ってしまった…。
悪いからこのぐらいで大丈夫と遠慮しても、「それこそ腐っちゃうほどいっぱい持ってるからいいのー。うにに!こっちも可愛いからこれも着る!」と聞いてはくれなかった。
そして、これから車を出したついでに、私の生活用品の買い出しにも行くとのこと。
友の家でそのまま着替えをしたので、今はの紺色ボーダーのTシャツの上に、レースのキャミソールを合わせ、さらにベージュ色のカーディガンを羽織り、下はデニムのショートパンツにニーハイソックスといった風貌になった。
「友に服のこととか提案してくれてありがとう」
「いや、ぼくもあいつに用があったから、そこまで感謝されると困るな。…でもその服、似合ってるよ」
「えへへ、ありがとう。
そういえば、朝からばたばたしてて確認してなかったけど、今って何月なの?」
「そっか、ちゃんがいた世界と時間や時期も変わってるかもしれないのか。
今は5月だよ。まだ5月というのに、京都はすでに暑いけどね」
「…そう。5月…、なんだね」
「…? 5月に何かあるの?」
「え!ううん、何でもないの!
それより、これからお世話になります。いーには迷惑ばっかり掛けると思うけど…」
「気にしないで。ぼくの方こそ、これからよろしくね、ちゃん」
「うん。改めてよろしくね!」
5月ー…、それは殺人鬼と人類最強が出合う。
人間失格と欠陥製品の物語。
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(20050718)