私の意識が覚醒したのは潤さんの車の中でした。


「ん・・・・」

「お、やっと起きたか。長い事寝てたから、おねーさん心配しちゃったよ」

「・・・・・おはようございます」

「まだ寝ぼけてんな。何だ?もう一発喰らいたいのか?」

「・・・・・いえ、結構です。すみません、起きました」

「んにゃ、おはよう。それにしても、腹は大丈夫か?」

「あ、はい。大丈夫ですよ。痛かったですけど」

「そうか。傷が付かなくて良かったな」


え?傷が付くぐらいやったんですか?と聞こうと思ったけど、
潤さんなりに心配してくれているので、黙っておいた。絶対に謝らない人だな。
それにしても、ここは何処だろう?
キョロキョロしていると、潤さんは私の行動が可笑しかったのか、笑った。
潤さんって、凄く綺麗だな・・・。反則的に脚が長い。・・・くそう、いいなー。


「あたしが今、泊まってるホテルに行くところだ」

「あ、はい。何時ごろ帰れますか?いーは大丈夫なんですか?」

「もう帰りの話か?ま、いーけどよ。んー、明日には返してやっからさ。
いーたんは独り虚しくお留守番中だ。安心しな、何もしちゃいない」


何だか、悪いことしちゃったな。いーには心配ばかり掛けてる。
あとで、何かお礼しなきゃ・・・。


「それにしても―――――――― ・・・」


潤さんが上から下まで本当に嘗め回すように見てくる。


「その服似合ってんな。サイズもぴったりで良かったぜ」


え?その服?私、普段着・・・・ですよね?
恐る恐る着てる服を見る。・・・・・・・・・・え?


「な、な、な、何ですかこの服は!!?」

「メイド服だけど?」

「見れば分かります!!!そうじゃなくて、何で私がこんなのを着てるんですか!?」

「いーたんが中々承諾してくれなかったもんで最終手段をとったんだけどね」

「・・・・・裏切り者め」


いーの奴、帰ったら一発蹴ってやる・・・!!











・・・











友のマンションに負けず劣らずに十分に大きくて豪華なホテルに到着した。
車から降りると潤さんはスタスタと先に行ってしまったので、慌てて後を追った。
赤で身を包んだ美女と、おどおどしているメイド(服を着ているだけなんだけど)の組み合わせは異様な光景らしく(当たり前だ)、
従業員の人やお客さんに凝視された。・・・好きでこんな格好をしてるんじゃないのに!(いーのバカ野郎!!)
やっと来たエレベーターに乗り込んで、着いたのはホテルの最上階。
そこは一室ずつ分けられているのではなく、ワンフロアが部屋になっていた。・・・スイートルームなんて生まれて初めてだ・・・。
潤さんは早速ソファに腰をかけて、私もこちらに来るように促した。
豪華な部屋に圧倒されながら、潤さんの向かいのソファに腰をおろす(尋常じゃないぐらいに弾む・・・!)。


「あたしも多忙なもんでね、さくっと本題に入らせてもらう。あたしの質問に正直に答えろ。答えるだけでいい」

「はい」

、零崎人識に会ったな」


それは質問ではなくて、確認に近い気がした。
睨むように私を射抜く赤色の瞳から目を逸らす。手には嫌な汗を掻いていた。ぎゅっと拳を握る。
どうすればいいのだろう・・・。言うべきか、言わないべきか。


「・・・・・・・会ってません」

「ああ?」


すくっと潤さんは立ち上がる。元々身長が高い潤さんが立ち上がると、座っている私は首を上げて見るしかない。
そのまま歩いて私の横に腰を下ろした。・・・・・・・・・横からの威圧感がハンパじゃない・・・。
ひしひしと感じるプレッシャーを前を向くことで耐えていると、潤さんは私の髪で遊び始めた。
しばらく髪を弄んでいたと思ったら、潤さんはいきなり耳に息を吹きかけてきた。
突然のことで思わず潤さんの方を向くと、請負人はにやりと笑ってそのまま私をソファの上に押し倒した。


「なっ!じゅ、潤さん!!!?」

「ふ〜ん、このあたしに嘘吐こうっての?いい度胸じゃねーか」

「そんなつもりは!それに・・・・・・・・・潤さんなら、全部知っているんじゃないですか?」

「確認、だ。本当かどうか・・・・のな」


この場から逃げたいけど、潤さんに両手首を頭の上で固定されていて動けない。
そこまで考えて思う。たとえ動けたとしても、この赤い請負人から逃げるなんて、それこそ無謀というものだろう。
開いている方の手で、するすると包帯を外していく潤さん。恥ずかしいやら恐いやらでどうにかなりそうだ。


「確認・・・・・ですか?ですから何の、痛っ」

「往生際の悪い奴だな。この傷はどうしたんだ?」

「の、野良猫にひっかかれました」

「野良猫にひっかかれたぐらいでこんな傷になるか?」

「それはー・・・、知りません」

「ナイフで、やられたんだよなあ?それに、、お前は一体何者なんだ?」


耳元で囁かれて、首筋に爪を立てようとするから、もう、


「ごめんなさい!私が悪かったです!!」


これじゃあいーと同じじゃないか!でも、私の命が持たない・・・。ごめん、人識。


「女の子にしては根性あんな、は。で、早速話せ、時間が無い」

「えーっとですね」


体勢がさっきのままなので正直キツイけど、話す事にした。
人識の事は多少は伏せておいたけど。傷の手当をしてもらったお礼だ。


「物語の外の人・・・か。ふ〜ん。でも、それを言ってはいけない、か。
 損な役回りだな。これから苦労するぞ、んで、いーたんとか。なーる」


やっと身体を退けてくれて助かった。そしてひとりごち。や、文句は言ってないです。


「んじゃー、仕事すっか。は、適当に寛いでろ。明日には送ってやっからよ」

「ありがとうございます」


とりあえず、お風呂にでも入ろうかな。はやくコレを脱ぎたい。











・・・











すやすやと寝息をたてて眠っている少女。
全てを知って、何も言えない少女。それがどれほど苦しいなんて知らない。
けれど、この顔を見てると、護ってやりたいと思う。


「だからあんなに必死だったのかねえ?」


あいつもトラブルメーカーだけど、も・・・・・


「全く、損な役だよな」


頬を撫で、瞼に口づけを落とした。





    

(20050726)