第 弐拾壱 話









ソファの隣に置いてあった服に着替えて(潤さんが持ってきてくれたらしい)

(念のため言っておくが、メイド服なんていうマニアックな服ではなく普通の服だ)

身支度を整えてから部屋を出る。

志人君には悪いけど、あの人に逢いに行かなくちゃ。

私の心と決着をつけるために。負けないために。行かなくちゃ。
















で、地道に階段を下りてきたのはいいのだけれど、問題発生。






「だーもう!出れないー!!!!!」






すっかり忘れてた。きれいにさっぱり忘れてました。これじゃいーの事、バカにしてられないし。

目の前の真っ白な扉には、頑丈にセキュリティロック(カード、網膜チェック、声紋、暗証番号、

ID付き)がかかっている。

だいたい何で外に出るときにもロック解除して行かなくちゃいけないんだよ!!

せめて、せめて窓ぐらいあれば良かったんだけど・・・・・・。(セキュリティの意味がない)

屋上に出てもここは第7棟。隣に飛び移る事は不可能。

あれこれと脳味噌をミキサーしたぐらいにフル回転させてはみたものの、私の頭ではいい方法は

考え付けそうになかった。仕方なく、(本当に仕方がなく)志人君を待つことにした。






「なんだよー、カッコ悪すぎだよ、自分。これじゃカッコよく助けに来たけど肝心の武器を忘れた

 戦隊物のヒーローじゃないかよー。あー、カッコ悪い。

 ・・・・・・・・志人君、来る・・・の、かな?ま、まっさかー」






独り言も好調、好調!(例えが訳わからんけど)

うーん、壊しても開かなそうだし、大人しく待ってるに越した事はないけど。

そうすると、(多分来るであろう)志人君を待ってる間がこれまた暇で仕方がない。

や、そんなこと言ったって仕方がないんだけど。こういう時って愚痴ばっかりよく考え付く。

嫌な事だ。

立って待ってるのも何だと思って、座ろうと腰を下ろした瞬間、扉 が 開 い た 。

危うく後ろに倒れそうになったけど、なんとか持ちこたえた。

後ろに倒れなくてよかった。



違う。



私が思ったのはこんな事じゃない。だって、そもそもどうして倒れそうになった?




ど う し て 扉 が 開 い た ?






「やあ、どうして君がこんな場所に座り込んでいるのかな?」






脱力仕切っていた体が一気に強張る。冷や汗が背中をつたう。全身で拒絶し始める。

駄目だ、負けちゃだめだ。ダメなんだ。ダメナノニ。






「どうしたのかい?そんなに脅えて。何か怖いことでもあったのかな?」






耳元で囁かれる悪意。回された腕。余りにも温かすぎた温もり。恐ろしいぐらいに。



今ここで負けちゃ、いけないんだ。負けちゃ。私がここでこの人に負けたら、救えない。

護れたはずの人達を、助けられない。心が負けちゃいけない。勝たないといけないんだ。

これは、私をこの世界に飛ばしたヤツからの試練なんだ。挑戦状なんだ。

だから
――――――

負けらんない。受けてたってやる。勝ってやるんだ。



目を瞑り、歯を食いしばり、拳を握る。爪が食い込む。耐えろ。勝て。






「はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け)」


「君は、何にそんなに脅えているのかな?」


「(白々しいったらない。でも幾分、落ち着けた)・・・垓輔さん、どうしてここにいるんです?」


「さて、どうしてだろうね?」


「・・・・・・・・・・・わからないから、訊いているんです」


「そうだね、うーん・・・・・、答えが知りたいのならついておいで、






そう言って、離れた温もり。悲しい事に、震えはまだ止まらない。悔しい。

でも、私はこの人を超えていかなくちゃならない。

立ち上がっても足が震えてる。でも、進むんだ、私は。






「はい」






まっすぐに前を、この人を睨んだ私の目には、酷く歪んだ笑顔が映った。



















*




















神足雛善の研究棟の一室。相変わらず、目の前の人物から笑顔は消えない。

(いくらスマイル0円だとしても、このニヤついた笑顔などタダでも貰いたくない)

(などと悪態をついてみるも、全くの無意味だったりする)

やっと平常心を取り戻して、出してもらった紅茶に口をつける。(美味しいんだよね、これが)

・・・・・・・・・ってなに和んでんだ自分!!!

さっきまでシリアス全開だったのに!・・・なんていうか、嫌な雰囲気だ。(完全にテンパってる)







「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」






よし、さくっと会話してさくっと終わりにしてさくっと帰ろう!






「垓輔さん、質問があります」


「君のターンだったかな?まあ、いい。俺はフェミニストだからね。レディーファースト、

 女性に優しくするのは当たり前だ。で、なんだい?その質問とやらは」


「(垓輔さん、饒舌だよ。ある意味尊敬・・・するのか?)100文字以内に簡潔に答えて

 下さい。100文字以内に簡潔に」


「わざわざ復唱しなくても俺はそんなに老いちゃいないよ。いいよ、何?」


「何で私をあの部屋に連れて行ったんですか?」


「・・・・・・・・・秘密と言ったら?」


「質問に疑問系を使って質問で返すのはよして下さい。真面目に答えてください」


「俺はいたって真面目に答えてるよ」


「(カチン)いい加減にして下さい!!!!!質問をしているのは私です!!!」


「わかった、俺が悪かったからそんなに怒らないでくれ」


「(怒らしてるのは間違いなくあなたです)」


「怒った顔も可愛いよ、


「いい加減にしてください。(にっこり)」


「(・・・・・)君は俺の役割をしっているかな?≪一群≫(クラスタ)での担当を」


「っ・・・・・・・最低ですね」


「褒め言葉として受け取っておくよ。『破壊』(クラック)担当の俺には、他にもない最上級の褒め言葉だ」


「褒めたつもりはこれっぽっちもありません。(これだったら人識を相手にしてたほうがまだいいよ)」






イメージとズレがありすぎる・・・!!!私の中の垓輔さんは、もっと優しかったよ!

実際は、変態でロリコンで悪趣味。わざわざ人の心を壊す(クラック)するためにあの部屋に連れていったり。

友、よくこんな人を束ねてられたね・・・。ごめん、私には無理があります。ノイローゼになりそう。






「はぁぁぁぁ、それとこの間の質問に答えます」


「質問?・・・・・・・ああ、あれか。『君は一体何者なんだい?』」






わざとらしくもう一度言う垓輔さん。(実際わざとなんだろうけど)

この質問にはこの間答えた。でも、あれは本当の私の答えじゃない。

所詮、あれはその場しのぎでしかなかった。

自分で言うのが恐かった。だって、自分がわからなかったから。わかってなかったから。

だから、訊かれても、心ではずっとわからなくて。

でもやっとわかった。やっとこの世界に来た私なりの理由が見つけられた。






「私は
―――――――・・・・・・・、私です」


「・・・・・・・・」


「私は、私以外の何者でもないし、私でしかない。他の誰でもない。私自身は、私自身です」






そして、助けるんだ。私の手で救える人を。未来を変えるのは重罪だと思う。わかってる。

それでも、それでも目の前で救えたはずの人が死んでいくのは嫌なんだ。

たとえそれが罪でも、エゴでも、私はやると決めた。

救うんだ、沢山の人を。私の、この手で。






「自分は、自分、か。そんな答えは考えてなかったな。ますます気にいったよ






人がシリアスに自分の決意を決めたのにコノヤロー。

なんだかヤヴァイ雰囲気ですねー。あははははー。(明後日の方向)うん、逃げよう☆





「それじゃあ、私はこれにて失礼しまーす。さよーならー」


「ここから出られるのかい?」


「・・・・・・・・やる気になれば人間、何だってできますよ!空も飛べるはず!!」


「無理だと思うけど?」


「頑張ればできます、うん!」


「頑張ってもできないことがあるのは君も知ってるはずだろ?」


「私にはできますよ、何だって。不可能を可能にしてきた女ですから!」


「ほら、行くよ」


「結局こうなるんかい!!!ぎゃー、助けてママン!」






横抱き(ようするに荷物持ち)にされて研究棟から出してもらえた。


(荷物持ちするな!!)






「また逢おうね、


「丁重にお断りいたします。ノーサンキュウです。じゃっ!!」






逃げるように帰りました。



あ、






「これからどうしよう・・・・。ケージに入るの?」






それはもの凄くやだなぁ。とりあえず、宿所に戻ることにした。
















           








≫シリアス・ギャグ・シリアス・・・・みたいな?不完全燃焼万歳☆(去ね)
 はやくサイコロ終わりにしたいなー。ボチボチと終焉にしたいです。(20051024)