第 弐拾弐 話









独り虚しくとぼとぼと歩いてて気が付いた。



今、何時だろう・・・・・・・・・?



どう考えたって結構な時間があれから経っているわけだから・・・・・いーが

今頃解決しているかもしれない。いや、いくらなんでもそこまで話が進んでは

いないよね・・・まさか。

第2棟から歩いてきて、丁度、第1棟の前で気が付いた。そして足を止めた。

それが、いけなかったのかもしれない。






「お前は・・・・・・・」


「!!!!?」






沢山の人の足音が、私のすぐ近くで止まった。

全身から血の気が引く。心臓が波打ってる。冷や汗が止まらない。顔は蒼白に違いない。






「何故ここにいるんだい?お嬢さん」


「はか・・・せ・・・・・・・」






博士を先頭に、宇瀬さん、志人君、根尾さん、神足さん、三好さんが私を見ている。

・・・・・・・・・ほぼ、オールキャラじゃない。

志人君、そんな驚いた顔しないでほしいな。(ちょっと傷ついた)

私が、ここに居ることは、出くわしてしまった事はやばいことだよね・・・。

落ち着け。落ち着け。ここで取り乱しては、どうにもならない。落ち着け。思考しろ。


この面々が第1棟から出てきたということは・・・・・・






「博士こそ、どうしてこんな所にいらっしゃるのですか?何かご用事でも?」


「質問しているのはこっちだ。・・・・・・いい、まあいい。

 これから君のお友達とやらに逢いに行く所だったのさ」






やっぱり。春日井さんが居ないことから、大体は予想していたけど。

第4棟に向かう所だったのか。と、言う事はいーは第4棟にいるか、いないか。

なんとまあ、運が悪い。自分の運の悪さを恨む・・・・・・!(恨んだって仕様がないけど)

どうしよう。何とか切り抜けなくちゃ・・・・・。






「お嬢さん、耳は聞こえているのか?質問しているのは私だが?」


「・・・・・・聞こえてますよ、しっかりと」


「では、また問う。お嬢さんはどうしてここに居るのかね?」


「散歩をしていたら道に迷いまして」


「・・・・・・・今まで何処に居た?」


「宿所で寝ていました。つい先程、起きたところです」






志人君、根尾さんにアイコンタクトをとりながら「何かあったんですか?」と博士に質問する。

我ながら、本当白々しいな。(物語を知っているから、仕方ないか)






「根尾の奴にでも訊け。・・・・・・・それにしても本当か?根尾、そこのお嬢さんは

 お前があいつらを呼びに言った時に寝ていたか?そもそも、そこに居たか?」






根尾さんは一瞬、私を見てから「ええ、ちゃ−んとベットで眠っていましたよ」と言った。

助かった・・・。内心ヒヤヒヤしていた。根尾さんがここでバラしていたら、

私は間違いなく犯人にされていた事だろう。(今も犯人扱いにはかわりないけど)






「・・・・・・本当か?お前はどうもこいつらの肩を持つからな、信用ならない」


「そりゃないですよ、博士」


「根尾、嘘をつ「博士、今はそんな事を言っている場合ではありません」


「・・・・・・志人か。何だ?お前まで私に逆らうつもりか?」


「いえ、そういうわけではありません。ですが、博士がこのようにしている間にも、

 あいつらが何かやっているかもしれません」


「そーやで博士。春日井ちゃんが先に行ってるから心配はあらへんとは思うけどなあ、

 もしもの場合があるやろ。今ここで口論してる暇なんてあらへんのやないか?」






博士は2人に言われ、深く眉間に皺を寄せて顔を歪めたものの「そうだな」と言って、

第4棟の方に歩いていってしまった。宇瀬さんもすぐに後を追っていく。


助けてもらったので、残っている4人にお礼を言う。






「えっと・・・・・、ありがとうございました」


「べ、別に礼をいわれるよーなことなんかしてねえよ」


「ええって、ええって!気にせんといて。我が生徒の友達やさかい、助けんのは当たり前やろ」


「可愛いお嬢さんが困っているのを、放ってはおけませんからね。ね、神足さん?」


「・・・・・・・」


「・・・プッ」






思わず噴出してしまった。失礼だとは思ったけど、なんだかおかしかった。

志人君は不機嫌にし、三好さんと根尾さん、神足さんは私を見てただ呆然としている。

それもツボに入ってひとしきり笑ってから「すみません」と続けた。






「すみません・・・・・・、ふふっ・・・面白くって。

 ・・・・・・・・皆さん、先程はありがとうございました」






その場にいた4人は思う。

この少女の笑顔は、今までに見たどんな笑顔より、明るく、心から楽しそうだ、と。






「あっ、早く行かないと博士に怒られちゃいますよ?」


「やべえ、はやく行くぞ!」


「そやった!はよ行かな!」


「すっかり忘れてましたね。ね、神足さん」


「・・・・・・・しらん」






数回言葉を交えただけなのに、心が温かくなれた。

久し振りに優しさに、少しだけ、涙がこぼれそうになったのは私だけの秘密だ。



















*



















第4棟地下に向かう。ただ静かに、靴の音だけを響かせて。



地下についた時に、いーがこちらを向いた。私は動かない。

いーが大きな犬に左手を深くまで噛まれていた。私は動かない。

いーが犬にナイフを刺して切り裂いた。それを見た志人君が大声を出した。私は、動かない。

研究員のみなさんがいーに走り寄っている。私は、動かない。動けないんだ。


何故だかはわからない。どうしてなのだろうと思う。



それは、友のあんなに悲しそうな顔を見たからなのか。

それは、いーのあんなに必死で傷ついてる姿を見たからなのか。

それは、私の肩をしっかりと神足さんの大きな手が掴んでるからなのか。



わからない、わからないけど、動けなかった。足の裏が張り付いてて、動けない。

ただ、爪が食い込むのも構わずに手を、握り締める。


(これは、いーの試練でもあるから)


この人に、勝たなくちゃいけないんだ。自分の心と向かい合っていくんだ。

今までの、どの物語よりもいーは過去と向き合って立ち向かっていかなくちゃならないんだ。

ここは私が干渉しちゃいけないんだ。

倒れいくいーを見ながら、走り出しそうな足を、必死に抑えた。















      






≫これはいーがケジメをつけなくちゃいけないと思い、さんは踏み止まりました。
 本当は、今すぐにでも走っていーの近くに行きたかったんですよ。
 でも、それじゃいーの為にならない、と思ったのです。という、補足です(ここで補足するなよ)
 そろそろでサイコロジカル編が終りますです。はやく狐さんとか出すぞー!!(20051113)