第 弐拾伍 話
「あたし、匂宮理澄だもん」
4畳間の部屋でテーブルを4人で囲む中、理澄ちゃんはいーと対面するように私の隣に
座り、お寿司を食べながら元気よく自己紹介した。
知ってます!、と言いたいけどここはガマン我慢。
お寿司を食べている理澄ちゃんは犬みたいだったけど、そこがまた可愛いい。眼鏡っこだし。
戯言シリーズは美形が揃ってるけど、めんこい子も居て、チクショウいーが羨ましい・・・。
でも、こうして間近で見られるんだから異世界トリップしてきた甲斐があったってもんよ!
いーに視線を移すと、まだ放心状態が続いている。
で、私もちゃっかりお寿司ご馳走になってるし。・・・美味しいから良し!
「16歳。名探偵だねっ!」
「・・・・・・・・・・」
「そう。わたしは春日井春日。動物学者」
「私は。言うならば一般人ってやつです」
「こっちの人はいっきー。戯言遣いさんです」
春日井さん、淡々としてるなぁ・・・。や、面白いけど。そう、なんて言ったって面白い。
いーがマジでビビリだすぐらいに。楽しいお姉さんだ、行き過ぎなければ・・・・・。
・・・・そういえば私は麦茶を取りに来たんだっけか。忘れるところだった。姫も待ってるし。
でもなー、折角理澄ちゃんが来てるんだから話したいし。
姫は多分寝てるだろうから、しばらく目の前で繰り広げられてるコントを見ていることにした。
だっていー、春日井さんの前だとおもいっきり口調変わるんだもん。
「ところで名探偵というのはどういうご職業なのかな?」
「ふふん。まあ、一言で言えば頭脳労働、だねっ」
「へー」
「ただ言わせてもらえれば、名探偵とは職業じゃないんだよお姉さん達、お兄さん。
名探偵とは、生き様なんだねっ!」
にやり、と理澄ちゃんは格好よく笑った。
生き様とか・・・・・・・・・・、最高!(親指をぐっと立てる)
危うく噴出すところだった。目に涙は溜まってるけど。やば、ツボった・・・。
「お姉さん、なんで笑ってるのかな?」
「へ?いや、大した事じゃないから気にしないで!私、結構笑い上戸だから」
「ふーん、お姉さんも大変だねっ!」
「理澄ちゃんほどじゃないよー。お互い様だね」
「似たもの同士だねっ!お姉さん大好きっ!」
「私も大好きー!」
タックルしてきた理澄ちゃんを両手で抱きとめる。ちっちゃくて可愛いなー、もうっ!ほっそいし!
「ところでその拘束・・・・・むぐっ」
「どうしたの?」
「いやいやなんでもないなんでもない。唐突にプロレスごっこがしたくなっただけ・・・・って、
春日井さん、指を舐めないでください!」
飛びのいたいーに睨まれても、春日井さんは薄い唇の狭間からぺろりと赤い舌先を出して、
じっとりと艶かしい眼で見ていた。
・・・・・・・・・・・春日井さんには 絶対 逆らわないようにしておこう。
な、何されるかわかったもんじゃない!
「・・・・・・えっと。まあどこに行き倒れていたかがわかったところで、どうして行き倒れていた
のか教えてくれるかい?やっぱり探偵的なエピソードがそこにはあるのかな?」
「探偵じゃなくて名探偵だよ。
さあ。どうしてかと問われると、そう、多分おなかが減ったからかな。あたし、集中してると食事とか
するの忘れちゃうんだ。そんなこんなでもう3日も何も食べてなかったからふらふらだったんだね」
「・・・・・・・・・・・・・・」
理澄ちゃんは私の足と足の間に器用に座っていーと向きあって話している。いいなー、髪長くて。
「しかし眼が覚めたらいきなり目前に特上寿司という展開は初めてだったんだね。
いやー、ご馳走さまだったねっ。お寿司、大好きっ!」
「いえいえお粗末さまでした。お金なんか取らないから心配しないでいいからね」
うーん・・・春日井さん、やっぱ鬼だ。それに気づかない理澄ちゃんもどうかと。
でも普通は自分の財布からお金を盗られて、そのお金でご馳走してもらった・・・なんてよっぽど
疑り深くて被害妄想が激しい人ぐらいしか予想できないよね。・・・・・そんな人が居るのか不明だけど。
理澄ちゃんがそんな人間なわけがないし。私も例外ではなく。
「・・・・・まあ、お寿司も食べられたことだし、諦めるもん」
理澄ちゃんは垂れてマントを取りに向かった。
「長居は無用なので、退散しようと思うことにしました」
「そうですか」
「残念」
「お姉さん、ありがとっ!・・・・・・・はぁ。今晩の宿、どうしよう・・・・・・」
「宿って、この辺に住んでるんじゃないの?」
「あたし、旅から旅への放浪者だから」
「放浪者?」
「ロマンチスト」
ろ、ロマンチストって・・・!!!またツボる。事実、笑い上戸だった。
「・・・・・・理澄ちゃん。なんなら、お金貸そうか」
「いいのっ!?」
「うん・・・・・そんなに多くは貸せないけど」
「ありがとっ!お兄さん、大好きっ!」
どーんっ!と、いーにタックルをかます理澄ちゃん。
ここでいーがお金を貸してなかったら、私は確実にいーを殴っていただろう。
いーがそんな心が無い人間なわけないけど。
「それから理澄ちゃん、人のことを軽々しく大好きとか言っちゃ駄目」
「? なんで?」
「好意ってのはつけ込まれるからね。いや、勿論、きみがそうやってつけ入るつもり
なんだってんなら話は別だけど」
「ロリコンの人には気をつけないと駄目だよ?」
「ちゃん・・・・・(それを言ったらちゃんだって危ないよ)」
「?・・・・・・はい。よくわかんないけど」
「純粋な少女にとんでもないことを吹き込むんだねいっきーは。現実主義者はこれだから
嫌なんだ。こんな大人にはならないように気をつけるんだね理澄ちゃん」
「それは一理ある」
「・・・・・・・(ちゃんまで・・・)」
いーに恨めしい目で見られたけど、この際気にしないことにする。
いーを苛めるのも楽しかったりするのである。
「はい。わかりましたっ!」
それでこそ理澄ちゃん。天然キャラ最高。
「ではではではでは、お世話になりましたっ!お兄さんお姉さん達っ!」
「理澄ちゃんと話せてよかったよ。外まで送ってくね」
「ありがとなんだねっ!」
「困ったことがあったら遠慮せずにいつでも訪ねてきてくれていいからね」
「てめえは黙ってろと言っている」
「あたし、仕事の都合でもうしばらく京都に滞在することになってるんで、縁があったらまた
会えると思うよ。来たばっかしだから、ホテルとかは、これから決めるんだけど」
「・・・・・・そ。縁があったら、ね」
いーは、これを木賀峰教授が言ったものと思っているけど、原点は違う。
それはこれからの物語を狂わせる人が言った言葉だ。いーの、敵。人類最悪。
多分、私自身の敵にもなるのだろう。
「会えたら、お金、返すからね」
「いや、それは別にいい。ぼくらのことは忘れてくれていいよ。
それより、仕事の都合・・・・・・・と言うと?」
「くふふー。今、あたしはね」
そこで一旦、言葉を区切る。
「零崎人識という男を探しているんだね」
「・・・・・・・」「・・・・・・・」「・・・・・・・」
「それが今の頭脳労働、だね。あ、お兄さんもお姉さん達も、何かその≪零崎人識≫という
男について情報を持っていたら、その名詞の番号に電話してくれたら嬉しいな」
「じょ・・・・・情報といっても・・・・。しかし、どんな人なのかも分からなきゃ」
お?どもってる、どもってる。
そりゃ私も訊かれたら冷や汗だらだらで目が泳いじゃうと思うけど、そうならないのは、
私が物語を知っているから・・・・・・だよね。
「んー。なんかいい番号だね」
「・・・・・・・・・」
「? どうかしたの?不思議な顔だねっ」
「いや、別に・・・・・・・・・」
「そ。それではこれで失礼させていただきます。お兄さんもお姉さん達も、おさらばですっ!」
「私も今日はこの辺でお暇させていただきます。いー、麦茶と麦茶のパック貰ってくね。
んじゃ理澄ちゃん、行こっか。いー、春日井さんおやすみなさい」
返事が無いのはわかってるから、そのまま理澄ちゃんと一緒に部屋を後にした。
*
「お兄さんとお姉さん、ちょっと変だったけどどーしたのかな?」
「うん?・・・・・・理澄ちゃんと別れるのが寂しかったんじゃないのかな、きっと」
「へ?そうだったの?!今度あったらお礼言わないといけないんだねっ!
お姉さんも、送ってくれてありがとっ!お姉さん、大好きっ」
「私もだよー!それといーも言ってたけど、色んな人に軽々しく大好きとか言っちゃ駄目だよ。
今の世の中物騒なことばっかりだから。理澄ちゃんは大丈夫だとは思うけど、用心するのに
越したことは無いからね」
「お姉さん、やっぱり優しいねっ!・・・・・もうこの辺で大丈夫だよ」
アパートをちょっと過ぎた所で立ち止まって、お互いの連絡先を交換し合った。(メル友ゲーット)
「お姉さん、縁があったらまた会おうねっ」
「うん、またね理澄ちゃん」
そう言って、別れた。
帰ったら、理澄ちゃんにメールしよーっと。
その時の私は、理澄ちゃんの両腕がふさがっていることを忘れていた。
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≫お久し振りです。しかも無駄に長いです。そして打つのも久し振りです。
理澄ちゃんと交流〜♪いーたんは大してしゃべってない!(笑)
次はー・・・、番外か、狐さんか・・・。気分次だi(殴)どうなるかは運命次第!(ォィ)(20051223)