第 参拾 話
部屋の中に木霊する、シャープペンシルの音。
カリカリ、カリカリカリカリ、カリカリカリカリカリカリカリ。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・えっと、難しくない、これ?・・・理数系はね、あんまりって感じかな!
と、無理して思っているけれど、それで問題が解けたら苦労はしない。
只今、適性検査中。テストという名の拷問である。あうち。
因みにすでに理澄ちゃんは退室済み。今は私と姫の2人きり。シャーペン音は苦し紛れの雰囲気作り。
・・・・・・一人で何やってんだ、って感じだ。
「うう・・・・・・ううう・・・・・・・・・」
唸っても、駄目なもんは駄目、か。(当たり前だ)
でも、あれ?これって結局はなくなるんだから真剣にやらなくてもよさげなような・・・。
・・・そんだったらよっし、終わりにしよう!
席を立って、答案用紙を1番前の机に置いて、(姫は机に突っ伏したままだった)部屋を出た。
ら、朽葉ちゃんが廊下の角でこちらを見て一人、佇んでいた。視線は私を捉えたままだ。
・・・どうしていいか分からないのが、本音。このまま行っていいのか、話しかけたほうがいいのか。
朽葉ちゃんの、私を見る目が気になる。
いー達を見る時とは違う、どこか、淋しそうに私を見る。さっきも。そして、今も。
「こっちに来たら?」
「へ?」
「へ?じゃないわよ。こっちに来たらどう?って訊いているの。
ドアの前に突っ立っているよりはいいんじゃない?」
確かに。理由もごもっともだし、朽葉ちゃんの折角のお誘いを断る理由もないので、
朽葉ちゃんの隣へ歩いていった。その間もずっと、彼女は視線を私から外していなかった。
と、いうか、朽葉ちゃんから話しかけてきてくれるとは正直思ってなかった。予想外、というやつ。
朽葉ちゃんの右側の壁に寄りかかる。彼女はやっと、(というのもどうかと思うけど)視線を前に戻した。
「名前。あなたの名前、教えてくれる?」
またこっちに向き直って、朽葉ちゃんは少し、微笑んだ。(あ、こんな表情もするんだ)
それに答えるように、私も朽葉ちゃんと向き合って「。フルネームは、」と、笑い返した。
「そう、ね。私のことはどうとでも呼んで。
あ、でも『ちゃん』付けでは呼んで欲しくないわね。別なのがいいわ」
「(いーの事、好きじゃないのかな?)それじゃあ、『朽葉』って呼ぶね」
「ええ、それでいいわ。あなたにそう呼ばれると、何だか特別な感じね。
まあ、それはどうでもいい事だけれど。
は、どうしてここに、この場所に来たのかしら?態々あいつを追って来たんでしょう?
バイト・・・という理由だけではないと思うのだけれど。どうなのかしら?」
「どう・・・って言われてもなあ・・・・・・」
あなたを、死なせないため。
なんてのは言えるわけがない。当たり前だ。
でも、私もいーと同じで、みいこさんにはいつもお世話になっているから、
そのお礼をしようと思って来たのも確かだ。
はれ?でもさっき、私、適正試験はあれで無くなっちゃうからいいや、って終わらせてきたよね?
それじゃあバイト代も貰えない。・・・・・・・・・駄目じゃん!
まあ結局はみいこさん、宝籤が当たって自分でご購入なさるのだけれど。
「恩人への感謝の気持ちを表したくて、ちょっと出稼ぎに」
「あいつと同じ理由ね。何?はあいつとどういう関係?どういった仲なのかしら?」
「居候・・・かな?私が、いーの所に居候させてもらってるの。ちょっと訳ありで、ね。
だから、うん、そんな感じの仲かな?
いやいや、別に怪しい関係とかじゃないから、朽葉もそんな嫌そうな顔しないでよ!」
「・・・・・・・・・・」
「だから、ねっ!あんなでもさ、私の、恩人だから・・・・・・」
さっきの理由は、どちらかと言うならばみいこさんに、ではなく、
いーに感謝の気持ちを表したかった。と、言った方が適切な、正しい気がした。
いーのお手伝いをしたかった。
「がそういうのなら。まあ、私がどう言ったところで結局は何でもないのだけれど。
へえ、そうなの。居候ね。大変ね、色々と。
それなら先生に言って、だけ沢山出るようにしといてあげましょうか。
なんて、嘘よ、嘘。冗談。そんなに驚いた顔しないでよ」
くすくすと、可笑しそうに笑う彼女は、『死なない少女』では、なかった。
普通の女の子のように。普通の女子高生のように。どこにでも居そうな、オンナノコに見えた。
それが私には嬉しかった。
「だって、朽葉が言うと嘘っぽくなかったんだもん!本当かと思って焦っちゃったでしょ!!」
「ふふ、は真っ直ぐね。嘘が吐けない、嘘を吐いても顔に出るってタイプかしら。
あら、図星のようね。別に貶しているわけじゃないわ。いいことよ。
真っ直ぐなのはいいこと。でも、注意しないといけない。あなたは、凄く興味深い。
多分、先生もそう思っているはずよ。
何故だかは、理由ははっきりしないけれど、興味をそそられる」
「・・・興味・・・深い?」
「そう。だからあいつもあなたを酷く、気にかけているのかしら。
そうしたら、私のこれも、説明がつくのかしらね。不思議だわ。
もしかしたら・・・いいえ、何でもないわ。ごめんなさい、一人で話してて。
それより。気をつけてね、。あまり、突っ走った行動をしないように」
「・・・・・・?・・・わかった。あんまり突っ走らないようにします」
「ぜひ、そうして頂戴ね」
朽葉の言っていることはよく分からないけど、あんまりにも朽葉が、真剣な顔をして
言うので、静かに頷いた。どうしてだろう?
潤さんや、人識などが言っているのと、もしかしたら同じことかもしれない。
『殺せない』
『殺しちゃいけない』
・・・・・・・・・私は、何なのだろう。
一体、何者になってしまったのだろう。私は、私は、何者なんだ?
「どうかしたの?顔色が悪いんじゃない?あまり考え込まない方がいいわよ。
どうせ、考えたところで、思ったところで、実行には移せはしないのだからね」
「・・・・・・・・そう、だね」
思考しても、実行に移せるとは限らない。
なんて当たり前の言葉だろうか。当たり前すぎて、逆に、分からなくなってしまいそうだ。
「ねえ、朽葉」
「なあに、」
当たり前すぎて、逆に、分からなくなってしまうのか。
「生きるって、どういうことなのかな」
そうね、と朽葉は言った。
即答するかのように、あらかじめ用意された答案を言いあげるように、はっきりと。
「死ぬってことじゃ、ないのかしら?」
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≫朽葉ちゃんの登場でした。うむむ、難しい。
来週あたりに更新、とか言っておきながら1週間は軽く経過してしまいましたね。ははは。
先週は忙しかったので、ね。(とか言い訳を展開してみる)
朽葉ちゃん、しゃべりすぎじゃないのか?とかも思いましたが、まあ、結構しゃべる
キャラだとは思いましたけれど。淡白ではなかった感じ。(20060628)