第 参拾壱 話







「つぎ、おねーさんの番なんだねっ!」


「へ?もうそんな時間?・・・じゃ、入ってくるねー」


「いってらっしゃいなんだね!」


「いってきまーす」




必要なものを持って廊下に出る。



8月15日、夜は8時過ぎ。

あの後
――― 、朽葉と話して、そこで別れて、待合室に戻って、

いーと理澄ちゃんが居て、少し話して、木賀峰教授と姫が入ってきて、解散して、

フィアット・カタナ・Zのタイヤが破壊されていて、帰れなくなって、この現状に至る。


駐車場での惨劇を見たときのいーは、心底驚いた顔をしていた。そりゃビックリするよね、普通は。

まあ、私は、犯人(というのも些かおかしい気もするけど)を知っているから大して動揺は

しなかったけど、やっぱりいーは車(機械)が好きらしく、許せないところがあるようだった。

部屋割りはいーと姫、理澄ちゃんと私、ということになった。

シャワーを浴びる順は、姫→理澄ちゃん→私→朽葉→木賀峰教授→いーのように。

で、理澄ちゃんが今まで入っていたので次は私の番、という感じ。

修学旅行の夜の気分。それはこのお泊り雰囲気がやっぱり関わってくるのだろう。(ここは枕投げをするべきだろうか)




「絶対に、いーは本気で投げてきて姫に当たって泣かせちゃう感じだよねー・・・」




で、必死に謝って姫に何か奢ってあげるんだよ。うん、きっとそうだ。

などと、いーに似た戯言を呟きつつ更衣室で服を脱ぐ。汗びっしょりだな・・・。

少しでも汗をとばしておかなきゃ。じゃなきゃとんでもなく汗臭くなってしまう。

脱いだ服を籠に入れ、シャワールームに足を踏み入れる。



どうしたものだろう。

最近の私の頭をぐるぐるぐるぐると必要以上に回り巡っているのは、今日起こる事件のコト。

どうやったら、姫を死なせずに済むのか。

どうやったら、理澄ちゃんを死なせずに済むのか。

どうやったら、朽葉を死なせずに済むのか。

どうやったら、木賀峰教授を死なせずに済むのか。

どうやったら、いーを悲しませずに済むのか。

どうやったら、出夢を独りにさせずに済むのか。

どうやったら、どうやったら狐面の男に遭わずに済むのか。

そればっかり考えて、頭の中を、思考回路を掻き乱す。冷静な答えなど、出ていない。

それでも時間は進んでしまう。焦る。このままじゃ、みんなが死んでしまう。

私が、やらなくては。

死ななくていい人間が死ぬのは、おかしいじゃないか。




「・・・・・・やって・・・やる」




キュッ、と蛇口を捻りお湯を止める。タオルで身体を拭いて、朽葉から借りたシャツに袖を通す。

それは何だか朽葉のようで、涙が目に溜まった。(どうして、そんなことを思うのだろう)

まだ、泣くのには早すぎる。泣くのは、すべて終わったときでいい。

それまでは、私は、泣かない。


髪の毛を適度に乾かして更衣室をあとにする。




出夢がいた。




なぜ、ここにいる?

違うだろ、私。それは理不尽すぎやしないか。別に出夢がここに居たっておかしくない。

何を、焦っている?




「出夢・・・なにしてるの?」




出た声はかすれていた。

出夢はそんな私を大して気に留めていないように気だるそうに「そりゃないぜ」と言った。




「僕がいちゃいけないのかよ。僕が何か悪いことをしたような言い方だな。

 こんな僕ちゃんでもに言われちゃうと、傷つくんだけどなー!!!!」


「・・・あ、ごめん」


「・・・・・・・・・浮かない顔してんな、


「そ、そんなこと・・・ないよ。全然普通じゃん!やだなー、出夢、何言ってるの!」


「・・・・・・・・」




・・・無理があったかしら。ああ、キャラを間違えたか?

もう!全然平気だよ!!ちょっと湯上がっちゃってぼーっとしてただけ!いつもの元気なちゃんだよ!

だから、だからさ、

そんな悲しそうな顔しないでよ。




「・・・・・・が何にそんなに悩んでるのかは知らねえけどよ、




 そんな気張んなくてもいいんじゃねえの?




 もう少し気楽にいこうぜ。僕ちゃんを見てみろよ!こんないい性格してんだからさ!ぎゃはは!

 せーっかくの可愛い可愛いお顔が台無しでちゅよー!!!ぎゃはははは!!!!!!」




出夢なりの、慰めなのだろう。

・・・・・そんなに私、沈んでたかな。もしかして顔に出てたのかな。

あちゃー、やっちゃったな。心配かけちゃったんだ。いーとかも、気付いてたのかな?

俯いてた顔をあげる。出夢がにっこり笑ってる。




「・・・ありがとう」


「ん?別に礼を言われるよーなこたぁしてねえよ!

 僕はただの笑顔が見たかっただけだからな。僕はが笑ってくれるだけで、いいんだよ」


「!!!」




一気に顔に血が集まった気がした。顔が熱い。・・・顔はさぞかし真っ赤に染まっていることだろう。

は、恥ずかしい!!!出夢はこんなタラシキャラだったか?!!

いや、違うぞ!あたしの知ってる出夢は違うぞ!!タラシはいーと萌太なのをあたしは知ってるぞ!(何)


とっさに出夢から視線を逸らす。




「なになに?どうしちゃったのチャンん??顔がトマトのように真っ赤だよぉおお???
 照れちゃったのぉおおぉお???かーいーな!!ぎゃはは!告白(コク)っちゃった感じぃいいぃ??!!

 つーことで、ちゅーは???!!!!!」


「もう!調子にのんじゃない!!!」


「ぎゃはははははは!!!!それでこそだな!」


「まったくもう。・・・・・・せっかく・・・」


「せっかく??」


「〜っ、なんでもない!」


「気になるんだけどな〜あ!!!隠し事なんてやらしー」


「意味わかんないし」




出夢はすぐ調子にのって絡んでくるから疲れるのよ・・・。

せっかく・・・せっかくカッコイイかなって思ったのに。言うとまた調子にのるから言ってやらない!

それでもやっぱりさっきの出夢は、すごく優しい顔をして格好よかったから。




「出夢、ありがとう」


「ぎゃはは!いいってことよ!」





私もあなたの笑顔を失いたくないって、思うんだ。











      




≫出夢ドリィになってる!!!(ワォ、吃驚☆/じゃねえ)
 いい感じにフレンドリィになってると、思いたい。(20060724)