第 参拾参 話







ぱちっ、と重い瞼を押し上げる。目に映ったのは見慣れない、白くて高い、天井だった。

手を動かせば思ったより軽かった。動く、動く。

体を起こすと、どうやらここは寝室で、私は真っ白なベットに寝かされているようだ。



(ここは、どこなんだ・・・? だって私は、あの研究所に居たはずじゃ)



研究所。

その単語を思い浮かべるだけで、なぜか吐き気がした。なぜ?

取留めのない疑問が頭の中をいっぱいにした。そのせいで、ドアを開けて部屋に入ってきた人物に気付くのが遅れた。







「うに?やっと起きたんだね、ちゃん」


「・・・・・・・・・と、友?」


「うにに、マイネーム イズ 玖渚友、だね!なになにー?まだ寝ぼけちゃってるの?」







ビックリしすぎて声がでない。何ていうか、脳の処理が追いついてないのが自分でも分かる気がした。

そんな私の顔が面白かったのか、友はお腹をかかえて笑い始めた。







「〜〜〜〜っ、友!!!ちょっと笑いすぎなんじゃないの?!!もう、友ってばー!」


「だって、だって、ちゃん、すっごいマヌケな顔するんだもん!おっかし〜!!!」


「う、ひどい!だっていきなりだったんだもん、仕様がないでしょ!」







しばらくの間は笑っていた友だけど、笑いが収まったのか、いつもの屈託のない笑みを浮かべた。

ベットの上に座り、私をじーっと見ている。・・・・・私、何かしただろうか?

私が、友、と呼びかける前に先に、友が口を開いた。(どうしてだろう、その行動の全てがあの子に見える)







「何で自分はここにいて、何で自分はここに寝かされていて、何で自分はあの研究所に居たはずなのに、

 いーちゃん達はどこに居るのだろうか、自分はあれからどうしたのだろうか、無事なのか、

 それとも死んでしまったのか、今は一体何日で、何時で、何分で、何秒なのか、どのくらいここに居たのか。

 ちゃんは、それを僕様ちゃんに訊きたいんでしょ?ねえ、違う?きっと違わないよね」







驚いた私を見て、「顔を見れば僕様ちゃんだって分かっちゃうよん」と付け足した。

全て、私が思っていた疑問だった。寸分の狂いもない、的確としか表現しようのないぐらいに。

完膚なきまでに、そうだった。顔を見ただけで分かるのか・・・?そしたら友はやっぱり天才だ。

それとも私がそんなに分かりやすい表情をしていたのだろうか?(後者の方が有力そうだけど、

友も友なので、半々、ということで!)(でも、普通の人でも表情で疑問までは、分からないよなぁ・・・)







「さくさくっとちゃんの質問?うん?疑問に答えるとね、

 僕様ちゃんが連れてきたからここに居て、僕様ちゃんがここに寝かせて、ちゃんが玄関に倒れてて保護して、

 いーちゃんは帰ってきてなくて、うふふ、やっぱり駄目だったね、ちゃんは眠り続け、

 今日は8月18日の8時の47分の10秒で、54時間53分26秒ここに居た」







大体のことは、分かった気がする。

あれから。姫に気絶させられてから、友(と、いうかこの場合は玖渚機関)に保護されたということか。

ずっと、眠り続けていたのか。いーが帰って来てないんだから、アパートに行って・・・・・・・・・・、

今はもう、研究所にいるのだろうか?


訊きたいけど、訊けないことがある。


たぶん、わざと、答えてはくれなかったのだろう。何て、意地悪な彼女。目の前にいる、意地悪な彼女。

でも、恐ろしくて訊けない。ううん、訊きたくないの。確認を取りたいけど、怖いの。恐ろしくて仕方がないの。

そんな私の葛藤を尻目に、友は、言った。







「ねえ、ちゃん。僕様ちゃんはちゃんが今1番知りたい疑問の答えを知っている。

 教えて欲しいんじゃないのかな?どうなの?僕様ちゃんは知らなきゃいけないことだと、思うんだけどな」







意地悪、意地悪、意地悪、意地悪!!!!!!

訊きたくて堪らない。でも訊きたくない。どうも矛盾している。矛盾しか存在していない空間。

それでも私の口は、心など無視したように勝手に動いた。(勝手に、ではないと思うけど、でも私は口を開きたくはなかった)







「研究所にいた、人たちは、どう、したの?・・・・・・・・どうな、った、の?」







訊いてしまった、と思った。(あの子に似た彼女に)(彼女に似たあの子に)

恐ろしくもあり、安心したのも、確かだった。内容は、答えはどうあれ、訊けたことに安堵した。


彼女はそれでも笑う、哂う、嗤う。

その澄み切ったブルーの瞳で私を捉え、その真っ白な肌色の指で私を触り、その綺麗なソプラノで紡ぐのだ、言霊を。



蒼に侵される。

蒼に殺される。

蒼に染められる。



視界いっぱいの、蒼、蒼、蒼。







「いーちゃんとちゃん以外、みーんな、死んじゃったよ」











        




≫玖渚がブラッド+のディーヴァとキャラが少しだけ、かぶった。
 そして。
 期待に沿えなくて、ごめんなさい。(20060817)

誤字修正(20060825)