第 肆拾伍 話







先ほど買ったペットボトルの蓋を開け、からからに乾いた喉を潤す。

地面からの照り返しで、体感温度はさらに上昇しているけれど、水分補給をしたおかげでいくらかマシになった。







「あーあ。 せっかく汗流してきたのに・・・」







瞬間的に掻き始めた汗に、夏の暑さの恐ろしさを改めて思い知った。

熱射病にならないように帽子を被って来て良かった〜。

うるさい蝉の泣き声を聞こえないふりをして、家へ帰るために立ち止まっていた足を動かす。

この暑さでぼけ〜としがちな思考回路を奮い立たせて考える。





今頃いーは出夢に会うために福岡に行っている、はず。

という事は、物語が歪んでいなければ1泊して明日には帰ってくる。

そして電車の中で彼
―――――― ノイズに遭い、みいこさんの状態を聞かされて急いで病院に向かう。

・・・・・・私はそうなる事をとうの昔に知っていた。



そこまで・・・。

そこまで知っていながら私はっ!!!!!!



私は・・・病院で奇野頼知を止める事が出来なかった。それはみいこさんを人質にしてしまった事を意味する。

今更足掻いたところで、その事実は変わらない。

変わらないけど、悔やむ事はもうやめた。

今までの私なら、どうにも出来ない事実をどうにかしようとして、どうにもならない事実から目を背けて逃げていた。

だけど、ひかりさんに言われて改めて気付くことが出来た。


私には私にしか出来ないことをする。

出来ないことを出来るようにするんじゃなくて、出来ることを全うする。

それでいいじゃないか。

それに・・・みんなに頼ったっていいじゃない。私だって、巻き込む覚悟はもう出来た。

だから、いーが帰ってきたら







「・・・・・・ちゃんと話そう」







何もかもしっかり腹を割って話して。

受け止めてもらえなくたっていい。責められたって構わない。

私という存在をちゃんと知ってほしいから。







「それじゃあ、これからご帰還するいーのために、アイスでも買っておきますかね!」







もしかしたら食べてる余裕なんてないのかもしれないけど。

食べても食べなくてもいいし、蓄えておけばいいでしょ!備えあれば憂いなし!

・・・・・・・・・。

べ、別に私が食べたいとかそういう理由じゃないんだからねっ!





さて!そうと決まれば・・・。

ここの路地裏を通っていけば、確かコンビニとかの通りに出るはず・・・。

ちょっと、じゃなくてだいぶ寄り道になっちゃうけど、まあいっか!

運動だと思えば頑張れる、し!アイスのカロリーを先に消費したと思えば!!!

あ、でも帰りは早く帰らなくちゃ、せっかく買うアイスが溶けちゃう。

・・・しょうがない、走って帰るかぁ・・・。



と考えてたら、いつもの癖で通り過ぎそうになって慌てて左に曲がる。路地裏に入ると日陰が多くて幾分涼しかった。

ちりん、とどこかで鈴の音がなる。

風鈴・・・の音・・・なのかな?んー、少し違うような・・・?

でもこの音を聞くと夏だ〜!って思ってしまう。あと、蝉の鳴き声も。

風鈴の音は涼しげで安らげるけど、蝉の鳴き声は喧しくて余計に暑くなる。・・・同じ夏の音なんだけど不思議だ。

ふぅっと小さく息を吐いて、手でぱたぱたと扇ぐ。

狭い路地裏を進んで行くと、また分岐がある。ここを右に進むともうすぐ、






「よぉ、元気にしてたか。俺の可愛い子猫ちゃん(キティ)






声が、出なかった。


それはあまりにも突然すぎて思考が追いつけなかったからなのか、はたまた恐怖からなのか、私には分からなかった。

けれど確かに狐面の男はそこにいた。

亡霊のような印象を受ける死に装束を身に纏い、顔には不気味に笑む狐の面を付けた男が静かに私の目の前に佇んでいる。

そこにいるだけなのに、その圧倒的な存在感に逃げ出せない。

その絶対的な威圧感に私の戦意はすでに消失したに等しかった。

それ程までにこの男は
―――――――――― 私のすべてを掌握していた。







、お前を迎えに来たぜ」







これが白昼夢だったらどれほど救われたことだろう。

鈴の音がちりん、と鳴った。














       




≫書くのが楽しくなってきました!(はいはい)これ授業中に執筆したんですけどね笑
 またしても狐さんのご登場ですね。私は変態な狐さんが大好物です←←←(20090720)